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かげろうのにっき
かげろうの日記
堀 辰雄
「改造」1937(昭和12)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,890 字 · 60 页
それにしても何をお考えちがいなすって入らっしゃるのでしょうか。大へん頭が痛みますので、いますぐ帰ることも難しいかと思われますが――」そんな事をなにくれと書いて、その端に、「途々も、昔御一緒に参ったことのあるのを思い出しながら参りましたが、ほんとうにあなた様の事ばかりお思い申し上げて居るのです。やがてわたくしも此処を下ります」と書き添えた。
道綱を立たせてやってから、明け方の空をぼんやりと見やっていると、雲だか、霧だか、分からないようなものが、下の方から見る見るうちに涌いて来て、それが互に鬩ぎ合ってはどちらとへともつかず動かされながら、そこいら一面を物凄いほど立ちこめ出していた。……
昼頃、京から道綱は帰ってきた。「御留守でしたので御文は預けて参りました」という事だった。そうでなくとも、どうせ御返事はないに極まっていると私は思った。
さて、昼はひねもす例のお勤をし、夜は主のみ仏にお祈りをする。周囲は山ばかりだから、昼間だって人に見られる気づかいはなかったので、簾などもすっかり巻き上げさせたぎりだった。――ただ、ときどき思い出したように間近かくの木々から鳥が何やら叫びながら飛び立つのに、覚えずぎくりとして誰か人でもと、あわてて簾を下ろしかけては、漸っと見知らない鳥が二三羽翔け去っただけなのに気がつくような事