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このなつ

この夏

宮本 百合子

「週刊朝日」1925(大正14)年10月1日秋季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,213 字 · 13 页

青空文庫

片方の隣では、ドッタンガチャ、ドッタン、バタパタという何か機械の音に混って、職工が、何とか何とかしてストトン、ストトンと流行唄を唄った。一人が低い声で仕事とリズムを合わせて唄い出すと、やがて一人それに加わり、また一人加わり、終には甲高な声をあげ、若い女工まで、このストトン、ストトンという節に一種センチメンタルな哀愁さえ含ませて一同合唱する。

何とかして通やせぬストトン、ストトン、機械がドッタン、ガチャ、ドッタンバタと伴奏する――私は机の前に坐り、その小工場の内部の有様や、唄っている女工の心持を考えたり、稀には「二十六人と一人」を思い出したりする。けれども、いつもは騒々しい。実にやかましい。堪えがたく乱される。私はフダーヤにいった。

「これからはどんなことがあっても日曜になんぞ家を見ては駄目ね、あのひっそり閑としていたことはどう? カルピスくらいじゃあとてもおっつかないわ!」

「ハハハ、そのカルピスももうありゃあしない。さあ、垣根のところへ行って来なさい」

二人は、悲しき滑稽で大笑いをした。カルピスを、引越して間もなくその隣から貰った。やかましくする挨拶として。