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このなつ

この夏

宮本 百合子

「週刊朝日」1925(大正14)年10月1日秋季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,213 字 · 13 页

青空文庫

私は、

「私カルピスはきらいよ」

と、いった。

「変に白くてすっぱいものよ」

「へえ、だって初恋の味がするっていうじゃあないの、初恋はそんな? すっぱい? どれ」

フダーヤは、私より勇敢だから、すぐお湯をまして飲んだ。私は、彼女の顔つきを見守りながら訊いた。

「どう?」

「一つのんで御覧なさい」

「――酸っぱい?」

「飲んで御覧」

私は、彼女のしたとおりコップに調合し、始め一口、そっとなめた。それから、ちびちび飲み、やがて喉一杯に飲んで、白状した。

「美味しいわ、これは案外」

嫌いな私が先棒で、二三本あったカルピスが皆空になった。

「ねえ一寸、もうなくてよ」

「困ったな、食い辛棒にまた一つ欲しいものが殖えられては困ったなあ」

「いいことがある! さああなた縁側まで出ていらっしゃい。よくて、私は庭に降りるから」

「どうするの」

「内と外とで一つの会話をするのよ。私の声はよく徹るからきっと効果があってよ。私がね、一寸大きな声でカルピスが飲みたいな、というの、あなたが、もうないと返事をするのよ、そうすると、私がなるたけ、あっちの窓に向って、もうカルピスはないの? だって私もっと欲しいわ、とはっきりはっきりいうのよ、ラディオのアナウンサアのように」