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さかずきのりんね

さかずきの輪廻

小川 未明

「婦人公論 9巻1号」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,603 字 · 21 页

青空文庫

そして、晩方になると取り出されて酒をついで上げられました。やがて、ろうそくの火がともりつくした時分に、磬をたたいて、さかずきの酒は、別のさかずきの中に移されました。

「おじいさんのめしあがった後の酒は、味がうすくなった。」といって、息子は、その酒を自分で飲みました。

大事なさかずきだからというので、息子が、そのさかずきに酒をついで上げたり、また、下ろさなかったときは、彼の女房がいたしました。女房は、真の父、母の子供ではなかったけれど、もっともよく息子の心持ちを理解していたからです。そして、いつしか、彼と同じように、先祖の霊に対して、それをなぐさむることを怠らなかったからです。

しかし、たとえ、いかように、心づくしをしても、もう、死んでしまった人は、永久にものをいわなければ、こたえもしない。仏壇に、ささげられたさかずきの酒は、ほんとうに一滴も減じはしなかったのです。

「好きな酒を上げても、お父さんは、めしあがらなければ、お菓子を上げても、お母さんは、お好きだったのに、めしあがりはなさらない。」と、息子は、あるときは、仏壇の前に立って、涙ぐんでしみじみといったことがありました。