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さかずきのりんね

さかずきの輪廻

小川 未明

「婦人公論 9巻1号」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,603 字 · 21 页

青空文庫

やがて女房も、この世から去るときがきました。子供らは、母の御霊をも亡父のそれといっしょに仏壇の中に祭ったのであります。そして、母が生前、毎晩のように、酒をさかずきについであげたのを見ていて、母の亡き後も、やはり仏壇に酒をさかずきについであげました。

あるときは、仏壇に、赤くなった南天の実が徳利にさされて上がっていることもありました。そして、その青い葉と赤い実のささった下に利助のさかずきは、なみなみとこはく色の酒をたたえて供えられていました。

あるときは、清らかな、響きの澄んだ、磬の音が、ちょうどさかずきの酒の上を渡って、その酒の池がひじょうに広いもののように感じられることもありました。そして、ろうそくの火影がちらちらとさかずきの縁や、酒の上に映るのを見て、そこには、この現実とはちがった世界があり、いまその世界が、夕焼けの中にまどろむごとく思われたこともありました。

子供らは「仏さまのさかずき」だといって、そのさかずきをたいせつにしていました。そのさかずきをみだりに手に取ってみることも、汚れるからといってはばかりました。

さかずきは、仏壇のひきだしの中に、いつもていねいにしまわれてありました。