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さるかにかっせんとももたろう
さるかに合戦と桃太郎
寺田 寅彦
「文芸春秋」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,885 字 · 6 页
たとえば小学校の理科の教程といったようなものを見ても、その膳立てが立派であると同時に料理の種がすっかり限定されてしまって、生徒はそれだけを食って満足するが、他に食物のあることをいっさい忘却してしまう。そうして、今度ひとりで旅に出ると宿屋の食膳のおかずの食い方がわからないといったような風があるのではないか。
一本の稲の穂を教材とするのでも、一生懸命骨を折って三日も四日も徹夜して教程をこしらえてかかるからかえっていけないではないかと思う。不用意に取って来た一草一木を机上に置いて一時間のあいだ無言で児童といっしょにひねくり回したり虫めがねで見たりするほうが場合によってははるかに有効な理科教育になるということもありはしないか。先生から押しつけられた植物学は十分も運動場ではね回った後には、もうすっかり忘れてしまうかもしれないが、一時間植物とにらめくらをしたというそのことの効果は生涯に残るということが可能である。
おとぎ話も植物の標本もわれわれに教うるものは人間と自然との事実である。われわれはその事実を正しく認識するのが第一である。先生は黙って児童とともにその事実を熟視すればそれで充分ではないかと思うのである。