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ざんげのとう
ざんげの塔
夢野 久作
「探偵趣味」1927(昭和2)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,254 字 · 5 页
しかし上等兵殿の風呂敷を盗んだ覚えはない。だから白状しなかったのだ……と。これは事実であるが、世にも苦しい言いわけであった。
しかしこの言いわけで、その後の取調べは有耶無耶になった。私が新聞紙に包んで置いた餅が、どうしてずっと離れた寝台に寝ている伍長勤務上等兵の風呂敷で包まれていたかという理由も、従って不明のままに終った。
四人の嫌疑者の中には、私を怨んでいるものと、私の無罪を信じてくれるものと、ふた通りあった。班内でも諸説紛々という有様であったらしい。誰かが私の餅を盗みかけていたのだという者もあった。
いずれにしても「誰かがあの風呂敷の事を白状したら」と意地になって、四人の苦痛を問題にしていなかった私の卑怯さを思い出すとその都度に、大声で叫びたいような気持になる。
その後福岡に来て、ある新聞の記者をしていた時分のこと。
ある事件で朝刊の市内版を遅らしたために、三時近くなったので、主筆の自宅に押しかけて泊めて貰うつもりでタタキ起したがなかなか起きない。ねむさは睡し、立っているうちに蚊は喰うし、情なくなって来たので、少々ヤケ気味で玄関の扉を力一パイ押してみると、内部に照った電燈の光で、扉と扉の合わせ目に引っかかっている掛金が見えた。