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しいたげられたてんさい

しいたげられた天才

小川 未明

「白象 第1冊」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,087 字 · 9 页

青空文庫

その音は、外の風の声に、かき消されたけれど、子供は、さびしさをまぎらせていました。

いよいよ戦争が終わって、空襲の恐れがなくなると、この家族は、古いすみかへもどっていきました。そのとき、糸の切れた木琴は、ほかの不用になった品物といっしょに、捨てられるごとく、この村へ残されたのでした。

炭焼きじいさんの、孫の秀吉は、よく祖父の手助けをして、山から俵を運ぶために、村端の坂道を上ったり、下ったりしました。そのたびに、ちょうど道のそばにあった、古道具屋の店さきにかかった、木琴に心を奪われたのです。

「どうでも、おじじにねだって、あれを買ってもらうぞ。」と、かがやく瞳で楽器を見つめて、こう、ひとり語をするのでした。

しかし、よく働く孫の、この願いは空しくなかった。ついに、その木琴が、秀吉の手に入ったとき、どんなにうれしかったでしょう。彼は、苦心して、細い針金で、糸の切れたのをつなぎました。糸を強く張って、ピン、ピンと、ひくと、いい音に、一つ一つ、羽があって、雲切れのする青い空へ、おどり上がるような気がしました。

山や、谷や、木立までがこの音を聞いて、急に目覚めたものか、いままでに感じないほど、喜びと、悲しみの色を濃くしたのでした。