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そのとし
その年
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,964 字 · 28 页
一口に云えない困難辛苦や責任の日々が、この頃は漬け物をつけますというような平凡な報告のかげに察しられた。お茂登は、くりかえし、くりかえし息子からの手紙をよんだ。そして返事を書いた。書くときになると、つい一生懸命、私も元気に暮していますと書き、遠くにいる息子にはそう云わずにいられないのも、真実な心なのであった。
出征家族の家の中のいろいろの取沙汰が口から口へ、本当のこと、うそのことをとりまぜて伝わった。召集がかかると町から云い交した女を親の家へつれて来て、その女はまた何年でも息子が戻るまではここで働くと田植にまで出て稼いでいるという話。運のいい親もある、という側からそういう話は話された。息子が戦死して手当が下ったら、半身不随のようになっている婆さまと三つばかりの子をおき放してかえってしまった嫁の話もあった。嫁の実家と親とがもめている話。お茂登は、せめて源一の嫁女でもいたら二人で働いて待つにどんなに張合があったろうと思い、口にも出した。けれども、そんな例をきかされて源一の身に万一のあった場合を考えると、結局その嫁も、あって仕合わせとばかり云い切れない世の中に思えるのであった。