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どぶろくげんそう
どぶろく幻想
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页
」
それが、果して周さんとの問答だったかどうかは、分らない。
焼跡の草原まで来て、月が出てることが分った。薄曇りの空の中天に、淡い半月があって、地上には靄の気が漂っていた。
周さんは立ち止った。俺が千代乃さんを見かけた所だ。高い雑草の中に、周さんは数歩分け入り、そして地面を見つめた。千代乃さんの死体が横たわっていた場所だろう。その辺、草は踏み荒されていた。
周さんは鶴嘴をふるった。だがそれには及ばなかった。地面は案外柔かく、鍬だけで充分だった。二尺ばかり下に、小石交りの固い層があり、そこを鶴嘴で突破すると、また柔かくなった。四尺ほど掘った。
深夜のその作業は神祕じみていた。こそこそと侏儒どもが、地下の宝物を発き盗もうとしてるかのような、錯覚が起った。然し現実に、穴を掘ってるのは周伍文であり、側で見てるのはこの野島だ。なにか滑稽で忌々しく、笑殺したいのだったが、反対にふっと涙が湧いた。
「もういいだろう。」
あたりを憚る低い声で言った。
二人とも穴を覗き込んだ。ただ黒々としている。
俺は思いがけない自分の声を聞いた。
「アジアの憂鬱を、埋めよう。」
周さんは素直に答えた。