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どぶろくげんそう

どぶろく幻想

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页

青空文庫

けれども、連れ立って歩いてきて、それから、後のことは、ぼーっとしていた。はぐれた、というより、彼女は消えてしまった感じだ。説明のしようがなかった。

周さんは俺の腕を離して、こんどは、同国人の腕を捉え、俺の知らない言葉でしきりと饒舌り、そしてふいに、卓上に顔を伏せて泣きだした。その肩を相手は軽く叩きながら、低い声でなにか言った。

やがて、周さんは涙の顔を挙げた。

「千代乃はあんたに好意を持っておりました。その話、ほんとうに違いありません。わたしも、あれから、千代乃に逢ったことあります。」

しんみりした空気になって、俺は事の次第を尋ねかねた。ただ酒を飲むより外はなかった。

掛時計が十一時を打つと、周さんの同国人は立ち上り、周さんと短い言葉を交わして、帰っていった。

「さあ、あらためて飲みましょう。今晩はつきあって下さいよ。それより、先ず、話を聞いて下さい。」

周さんはいろいろな料理を持ち出した。ありったけの御馳走と言ってもよかった。俺はもう食べられなかった。その代り、濁酒をたくさん飲んだ。周さんはよく食いよく飲んだ。酔っ払って、二人とも、話はしどろもどろだったが……。