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どぶろくげんそう
どぶろく幻想
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页
」
尾高もさすがに、千代乃から金を借りていないとは言わなかったが、利子の件はそっぽ向いて取り合わなかった。そしてそれからは、濁酒の極上品の仕入れ先はどこかと、しつっこく千代乃に尋ねかけた。だが、その仕入れ先こそ、周伍文の唯一の祕密だったのである。固より、自家で造っているものではなかった。
「誰にも言ってくれるな、よろしい、誰にも言わない、そういう約束です。男と男との約束です。信用の問題です。人間としての信義の問題です。日本のひとは、約束を破って、祕密をもらすことを、自慢にさえしているようですが、わたしどもは違います。一旦誓った約束ならば、たとえ女房に対しても守ります。わたしは千代乃に、どぶろくの仕入れ先を、決して明かしませんでしたよ。」
その仕入れ先を、尾高がどうしてああまで知りたがったのか、理由ははっきりしない。つまりは、統制経済違反の確証を握って、周伍文を脅迫する意図だったとも見える。そして千代乃にしつっこく迫ったが、千代乃自身知らないこととて、何の手掛りも得られなかった。それを尾高は千代乃の強情のせいだと思ったらしく、悪どい手段に出た。詳しいことは分らないが、女中の言葉などを綜合してみると、尾高は周伍文の不在をねらい、子分を二人も連れてきて、卓子に短刀を突き立て、罵詈雑言や脅迫の限りをつくしたらしい