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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

文麻呂 見た?

清原 見た。この眼ではっきりと見てしまったのだ。自然そのままの汚れのない清純な女性の形象をとってこの現世に存在している、いわばそれは若竹の精霊だ。微塵の悪徳もなく、美わしい天然の姿のままで。それはあの竹林の中に生きている。

文麻呂 (じっと友の顔を凝視め、ややあって)「恋」だな? 清原………

清原 人の世の言挙がそう名付けるならば、それもよかろう。……石ノ上、僕は白状する。……僕は、……僕はその恋を知りはじめたのだ。

間――

文麻呂 (そっと友の肩に手を掛けて)よかろう、清原。僕は決して咎め立てはしないぜ。いやむしろ君のその碧空のごとく清浄無垢なる心を捉えた女性の顔が一目拝みたい位だよ。………恋とは夢だ。……「夢」とは全き放心だ。その正しい極限では一切が虚無となる。一切が存在しなくなる。それは未来永劫を一瞬に定着する詩人の凝視を形成する場所だ。真実の詩とはそこに生れるのだ。その虚無の場を不安と観ずるべからず、法悦の境と信ずべし、だ。そこに生ずる悲哀よりも歓喜よりも、何よりもそこに存する真実の詩をこそ尊ぶべきだ、と僕は思う。……清原、恋をしたまえ。