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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

(鐘の音)……でも、もうそんな時間なのかしら、一体? (間)ねえ、お父さん。もう少しぐらいいいじゃありませんか? これっきり、もう何年も逢えないんだと思うと、やはり僕は名残り惜しくてしかたがありません。もう少しお話しましょうよ。ねえ、お父さん、もう少し居て下さい。せめて鴉が鳴くまでならいいでしょう? 鴉なら本当に正確な時間を伝えてくれます。あれは自然そのものですから、全く偽りと云うものを知りません。僕は自然と云うものだけには信頼を置くんです。ねえ、あの切株に腰を下して、もう少し色々なことを饒舌り合いましょうよ。鴉が鳴くまでです。出発はそれからでも充分間に合いますよ。本当に保証します。……さあ、お父さん、お願いです。鴉が鳴くまで、せめて鴉が鳴くまでです。

塒へ帰る鴉が二三羽、大声で鳴きながら二人の頭上を飛んで行く。長い沈黙。

文麻呂 (低い声)やっぱり、お別れですね。

綾麻呂 (しんみりと)ま、いずれは別れねばならない運命だったのさ。

文麻呂 任地にお着きになっても、身体だけは充分に気を付けて、御病気にならないように注意して下さい。

綾麻呂 む。

文麻呂 お父さんはお酒を召し上らない代りに、甘いものとなると眼がないから、ちょっと油断をして食べ過ぎをなさるとすぐお腹をこわします。