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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

……(右に退場)

なよたけの琴の音、ぴたりと止む。……

同時に土間の敷居の所に、石ノ上ノ文麻呂と、清原ノ秀臣が凜然として立っている。

文麻呂 大納言殿! 忍びの恋路のお邪魔立てして申訳ありませぬ!

御行 (愕然として立上る)誰だ!

文麻呂 石ノ上ノ綾麻呂の息、石ノ上ノ文麻呂!

清原 (少々震え声で)……大学寮学生、清原ノ秀臣!

御行 (狼狽して)何しに来た!

文麻呂 (凜然と)道ならぬ不義の恋路に身をやつしておられる大納言殿を、お諫め申しに参りました!

御行 (興奮して、大喝する)生意気を云うなッ!

とたんに、右手なよたけの部屋の方から、彼女のヒステリックな叫び声が聞えて来る。……

なよたけ (声のみ)嫌です! 嫌です! そんなこと、あたし嫌です!……

御行 (狼狽の極。しばらくは全く惑乱状態。……ややあって、大声で右手に叫ぶ)爺!……葵祭の日にまた参るぞ!……葵祭の日に迎えを寄越すぞ!

大伴ノ御行、土間の外に立っている二人を突き飛ばさんばかりの勢いで、倉皇として、左方へ逃げ去る。

造麻呂 (右手奥からよろめくように出て来る)大納言様! 大納言様!……おや! あんた方は一体誰だい?