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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

雲斎先生もそう云ってらしたが、この症状が現れて来るようになったら、もう救い道はないんだそうだ。つまり、普通人には見えないものが見え、聞えないものが聞えて来ると云うのだ。……幻影とか幻聴とか云う奴さ、……小野! 僕はもう全く疑う余地はないと思うんだ! 石ノ上ノ文麻呂は時々このあやしげな幻覚に悩まされているんだぜ! 昨日も昨日で、やにわに僕をつかまえて、こんなことを云うんだ! 「清原! 見ろ! 貴様にはこの鮮かな宇宙の変革が分らんのか! 俺達を取巻いている七色の光彩の中から、無限に投射する白色光の世界が浮び上って来るのだ! 日輪が俺達に語っているあの言葉が貴様には聞えないのか!……ああ、貴様は凡人だ! 世の中の人間はみんな馬鹿だ!」こうなのさ。それも例の調子でやるんなら話は分るが、こんなことを君、血走った眼をして、大真面目に云うんだぜ。そうかと思うと今度は急に温和しくなって、まるで眼の前になよたけが現れたかのように、話し出すんだ。「ああ、なよたけ! お前だけなんだ! 真実の魂を持っているのはお前だけなんだ! 僕はお前のお蔭で、初めて生れ変ったような気がする! お前はまるで天の使だ!」