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ねずみとバケツのはなし
ねずみとバケツの話
小川 未明
「赤い鳥」1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,785 字 · 8 页
それは、ほんのわずかばかりの距離ではありましたけれど、この小さな動物にとっては、容易のことではなかったのです。
彼は、できるだけ下へくびを伸ばしました。まさしく、それは冒険でありました。しかしいくら、しっかりとつかまっていても、バケツの縁は円く、それに金属でつめの立ちようがなかったから、ねずみは、足をすべらすと同時に前のめりになって、水の中へ落ちてしまいました。ねずみは、水の中でもがきました。しかし、バケツの縁には、どんなことをしても、手足がとどきませんでした。
このとき、バケツはあざ笑ったのであります。
「おまえは、だれの許しを得て水を飲もうとしたのだ。小さなくせに、生意気な。俺の頭の上へ乗ったりして、みんな罰があたったのだ。こうなっては、逃げようと思っても逃げられるものでない。」と、バケツはいいました。
ねずみは苦しんでいました。そして、水をはね返しながら、
「私が悪かったのです。どうか助けてください。こんどからは、けっして、あなたの中にはいっている水を飲もうとはいたしませんから……。」と、バケツに向かって頼みました。
けれど、バケツは、冷淡に、からからと笑ってとりあいませんでした。