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「の」のじのせかい
「の」の字の世界
佐藤 春夫
「読売新聞 夕刊」1953(昭和28)年10月24日
N4 · 入门 · 新字新假名 · 1,431 字 · 3 页
お兄さんのまわすコマが、「の」の字を書いているし、コマのヒモも、おえんがわで「の」の字になっています。お庭のカタツムリは「の」の字をしょって歩いているし、うたちゃんの夜具のカラクサもようも、あちらむきやこちらむきの「の」の字が一ぱいです。お兄さんの頭の上に、だれか「の」の字を書いているというのを見ると、つむじのことなのです。お庭に「の」の字が生きて動いていた、というので、ついて行って見ると、ミミズがいたので、みんなでわらいました。
みんながわらったので、うたちゃんは、ひどくしょげてしまったので、わたしは
『ほんとうに「の」の字が生きて、ねんねしていたね』
と、うたちゃんを、なぐさめてやってからいいました。
『うたちゃん、字は「の」の字のほかにもまだたくさんあるのです。うたちゃんの「う」の字でも、「た」の字でも、ね。みんなおぼえますか』
うたちゃんは、大きくうなずいた。うたちゃんは、一字おぼえて自信ができ、おもしろくなったのでしょう。うたちゃんは、今に字をみなおぼえて、世界中を読むでしょう、きっと。