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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

「ねえ」と暫くしておようが囁いた、「もうお眠りになって」

「いや眼はさめてます」六兵衛はぐあい悪そうに答えた、「じつは女の人と同じ部屋で寝るのは初めてのことだし、私は寝相が悪いので、それが心配で眼が冴えてしまったらしい、けれどもう少し辛抱すれば眠れるでしょう」

「ねええ」と掛け夜具で口を隠しながら、おようが囁き声で云った、「あたしをお国へつれていって下さらないかしら」

「だって」と彼は吃った、「だってあなたは、松葉屋の娘あるじという、大切な責任を背負っているんでしょう」

「あれは番頭の喜七と、女中がしらのおこうに任せて来ました、あの二人にはもう子供もあるんです」

「私にはよくわからないが」

「詳しいことはあとで話しますわ」と云っておようは媚びた微笑をうかべた、「いまはあたしをお国へつれていって下さるかどうかがうかがいたいんです」

六兵衛は唾をのんだ、「いいですとも、あなたがそう望むなら、もちろんいいですよ」

「証拠をみせて下さる」

「どうすればいいんですか」

あなたはじっとしていればいいの、と云っておようは起きあがり、行燈の火を吹き消した。

五

昂軒、仁藤五郎太夫は精根が尽きはてた。