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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

「もとどりとは」と云って、昂軒は自分の頭を押えた、「――これのことか」

「そのとおり」と六兵衛は頷いた、「髻を切られるということは、侍にとってもっとも大きな屈辱だとされている、少なくとも、わが藩では古い昔からそう云われてきたし、私もそう云い聞かされてきたものだ」

「だからどうしろというんだ」

「済まないが」と六兵衛が云った、「その髻を切ってくれ、それを首の代りに持って帰る」

「髻が首の代りになるのか」

「なま首は腐るからな」と六兵衛が云った、「それに私は、人を殺したり自害するのを見たりするのは、好かないんだ」

「偏耳録」をまたここで引用するが、双子六兵衛は上意討を首尾よくはたし、おまけに嫁まで伴れて来たし、その高い評判によって、彼の妹のかね女も、中野中老の息子大八郎と、めでたく婚姻のはこびになった。――とある。筆者であるわたくしとしては、これ以上もはやなにも付け加えることはないと思う。