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ひとりすもう
ひとりすまう
織田 作之助
「海風 第三号」1938(昭和13)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页
激しく抵抗することも出来ず、轡川に身を任せた。以後二人の関係は続けられた。夫は間も無く死んで、明日子は白浜の近くのT港にある実家に帰った。轡川はその後度々白浜温泉まで出掛け、彼女を呼び出した。轡川は彼女に結婚してくれと言うのだが、彼女はその意志は無い。轡川には愛情は感じ得ず、今度彼女が白浜へ来たのは、轡川と絶交する目的で来たのでその話がつけば直ぐ田辺に帰えるつもりである。この間の晩彼女が夜遅く海岸にいたのは、轡川と口論して何となく宿を抜け出していたのだった。轡川があの時彼女を撲ったのは、勿論その口論の続きの行動だが、彼は非常に嫉妬深く、あの時彼女と並んで歩いていたぼくを嫉妬した為だという。
彼女の話は、聴いていて余り気持の良いものではなかった。殊に美しい彼女が野蛮な轡川のために辱められたなどという話は、それが当人の口から直接語られるとすると随分あさましい気持がする。義憤を感じて熱が出るほどだった。だが、正直に言えば、その時ぼくはかなり朗かな気持だった。年少のぼくに彼女がそんな身の上話をきかせてくれた、と言うよりむしろ、ぼくが巧くそうさせたと言うことの満足と、そういう話をしたということがお互いの親密の度を増したという喜びのためなのだ。