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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

何故ならそういう明日子の態度をみると、あるいは明日子は矢張り轡川の言った通り浮気な女でなかろうか、ぼくを誘惑しようとしているのではないかと思われ、いやな気がしたからである。しかし、このいやな気持は明日子を嫌悪するというよりも、その時明日子をそういう風に思わねばならぬことが又もやぼくが轡川の言を正しいとしなければならぬことになるので、そういうぼくの計算の間違いを認めることがいやだったのである。ぼくがその時彼女を嫌悪していたのだったら、恐らく、次に述べる様なことは起らなかっただろう。

それは、自分自身でも驚いてしまったほど意外なことなのだが、その夕方、轡川が莨を買いに行くと言って部屋を出て行った時、廊下で明日子と肩を並べながら海をみていたぼくは、ふと、明日子の白い首筋を見ると、あっという間にその首筋に手をかけて顔を傾かせ、接唇してしまった。歯の音がカチカチと鳴った。それは瞬間の内に終った。二人は離れた。ぼくは自分の唇を手でぬぐった。ぼくは何故そういう事をしたのか明瞭に自分に説明することは出来ない。何故接唇したかなどとは要するにくだらない問いで、結局接唇したかったから接唇したのだろうと思う。