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ひとりすもう
ひとりすまう
織田 作之助
「海風 第三号」1938(昭和13)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页
すると医者は、この頃婦人雑誌で石油が肺病に効くと騒いだり、又、石油を主剤にした肺病薬が発売されたりしたので、内務省衛生医局で実験をしてみたところ、結局石油に結核菌を殺す力は無く、むしろ人体に有害であると分り、その肺病薬は発売禁止になった、最近の新聞にその事が出ていたのを君は知らないのか、と言った。ぼくはふと、轡川がそれを知っていてわざとぼくに飲ませたのではないかと疑い、それならばその事を轡川に言ってやることは昨夜来の苦痛を補って余りあるほどの快感をもたらすだろう、又、知っていなかったとしても、とにかくそのことを言ってやる事は、昨夜明日子の意にそむいたことの償いにもなる訳だ。そう考えながら医院を出ると、下痢をしている身体にもかかわらず、妙に意気ごんで宿に帰って行った。
宿に帰えってみると、意外にも明日子は之からT港へ帰えろうとしている所だといい、実はあなたが居ないので、挨拶せずに帰ってしまう様なことにならないかと心配して、船の時間を気にしながらあなたの帰えりを待っていたのだが、どこへ行っていたのか、と訊ねた。ぼくは、それでは到頭別れ話がついたのかと思い、ふと轡川の顔をみると、涙が眼に光っているのが明らかに見えたので、その様にしょげ切っている彼にはもはや石油の話を持ち出すのは残酷だと思い、それで散歩に行って