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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

その場合、ぼくの身体の状態から考えれば、黙っていることこそ自然であったに違いなかったのだが、ぼくは自分が絶対安静を必要とする病人であることを忘れていたのだ。恐らく彼女の方は、ぼくに喋らせまいとして、又、ぼくの神経を疲労せしめまいとして黙っていたのだったろうけれど。

急に、彼女が、ハッとしてぼくの側を離れた。跫音がしたと思うと、もう次の瞬間には一人の逞しい男の身体が、ぼくらの眼の前に突っ立っていた。その巌丈な肩が動いたので、ぼくは思わず両手で胸の辺りを防いだ。と、ピシャリと音がして、彼女の身体がよろめいた。その男は彼女の手をとると、サッサと歩き出した。彼女は唇をかみしめてふっと空をみつめたまま、その男が引っ張るのに任せていた。ぼくは呆然として、二人の背後姿を見ていた。

翌朝、トロムボゲンをのむと、血痰は直ぐ止まった。二三日宿で臥床していると熱が下ったので、もうじっとして居られず、ぶらぶらと外を歩き出した。勿論彼女の姿を見つけたかったからなのだ。そして見つけた。湯崎の海岸通を朝の燦々たる日光を浴びて眩しそうに顔をしかめた彼女が、半町ほど向うから歩いて来るのを見た時、ぼくはドキッとした。