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びんのなかのせかい

びんの中の世界

小川 未明

「赤い鳥」1927(昭和2)年1月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,126 字 · 9 页

青空文庫

正坊のおじいさんは、有名な船乗りでした。年をとって、もはや、航海をすることができなくなってからは、家にいて、ぼんやりと若い時分のことなどをおもい出して、暮らしていられました。

おじいさんは、しまいには、もうろくをされたようです。すくなくも、みんなには、そう思われたのでした。なぜなら、海の中から拾ってきたような、朽ちかかった一枚の黒い板をたいせつにして、いつまでもそれを大事にして持っていられたからです。

また、おじいさんは、家の前に立って、あちらの山のいただきをながめながら、

「まだ、こないかいな。」といわれました。

みんなは、それを不思議に思ったのです。

「おじいさん、だれがくるのですか?」と、家の人が聞きますと、

「海から、私を迎えにこなければならぬはずじゃ。」と、おじいさんは、答えられました。

おじいさんが、とうとう亡くなられてしまってから、おばあさんは、正坊に、よくおじいさんの話をして聞かせました。

「おまえのおじいさんは、有名な船乗りだった。しかし、年を取られてから、もうろくをなさって、毎日、あちらの山の方を見て、海から、だれか呼びにくるはずじゃといっていられた……。