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ふしぎないわ

ふしぎな岩

林 芙美子

「こども朝日」1948(昭和23)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,676 字 · 8 页

青空文庫

夜になって、ふしぎな岩は、そっと動きはじめました。岩が動くってへんですね。

あわいお星さまをすかして、霧のような山風が、ひくい谷間から、ごう、ごう、ごうと吹きあげています。どこかの森の方で、フクロウが鳴いています。岩は、どっこいしょと起きあがって、せいいっぱいにのびをしました。

「ああ、いい気候になったな……遠いところへ旅行をしてみたいな。」

と、ふしぎな岩は、むくり、むくりと少しばかり歩きました。すると、谷間の方から、ざわざわとササヤブをふみ鳴らして岩山の方へ何かが登って来るようなようすです。ふしぎな岩は、「おや、何だろう?」と、じいっと耳をすましてまわりをながめました。

がさがさと音をたてて、やがて、一ぴきのオオカミのようなけだものが、いかにもつかれきったようなすがたでひょいと岩の前に登って来ました。岩はじいっと息をのんで、そのけだものを見ていました。

じいっと見ていると、それは、いつもこの山みちを通る、山小屋の飼犬のタローでした。こんな真夜中をどうして、いまごろ、タローがひとりで歩いているのだろうと、岩はみょうなことだと思っておりました。タローはつかれてへとへとになっていたのか、岩のところへ来ると、そこへ腹ばいになって、ウオー、ウオーと谷底をながめながらほえたてています。