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まじょりかざら
まじょりか皿
寺田 寅彦
「ホトトギス 第十二巻第四号」1909(明治42)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,089 字 · 9 页
娘の姿のちらちらする日には竹村君は面白そうに一時間の余も話し込んでいるが、娘の顔を見せぬ日は自然に口が重くてそうかといって急に帰るでもなく、朝日を引切りなしに吹かして真鍮のしかみ火鉢の片隅へ吸殻の山をこしらえる。一週間に一遍くらいはきっと廻って来るが、いつ来ても同じような話ばかりしている。店へは郷里の新聞が来ているので話はよく郷里の噂になる。それから昔の同級生の噂になる。福見や河野が洋行する話や、桜井が内務省の参事官で幅を利かせているような話が出ると竹村君は気の乗らぬ返辞をしてふっと話題を転ずるのであった。
今日も夕刻から神楽坂へ廻って、紙屋の店で暮の街の往来を眺めていた。店の出入りは忙しそうであったが、主人は相変らず落着いて相手になっていた。兵隊が幾組も通る。「兵隊も呑気でいいなあ」と竹村君が云うと「あなた方も気楽でしょう」といってにやにやした。竹村君は「そうさなあ、まあ兵隊のようなものだろう」といって笑った。彼は中学校を出るとすぐに生真面目な紙屋の旦那になっている主人と、自分のような人間との境遇の著しい違いを思い較べていた。そこへ外から此処の娘が珍しく髪を島田に上げて薄化粧をして車で帰って来た。