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まじょりかざら
まじょりか皿
寺田 寅彦
「ホトトギス 第十二巻第四号」1909(明治42)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,089 字 · 9 页
水菓子屋の目さめるような店先で立止って足許の甘藍を摘んでみたりしていたが、とうとう蜜柑を四つばかり買って外套の隠しを膨らませた。眼鏡屋の店先へ来ると覘き眼鏡があって婆さんが一人覘いている。此方のレンズを覘いてみると西洋の美しい街の大通りが浮き上がって見える。馬車の往来が織るような街の両側の人道の並木の下には手を組んだ男女の群が楽しそうに通っている。覘いている竹村君の後ろをジャン/\と電車が喧しい音を立てて行くと、切るような凩が外套の裾をあおる。隣りの文房具店の前へ来るとしばらく店口の飾りを眺めていたが戸を押し開けてはいって行った。眩しいような瓦斯燈の下に所狭く並べた絵具や手帳や封筒が美しい。水色の壁に立てけけた真白な石膏細工の上にパレットが懸って布細工の橄欖の葉が挿してある。隅の方で小僧が二人掛け合いで真似事の英語を饒舌っている。竹村君は前屈みになって硝子箱の中に並べたまじょりか皿をあれかこれかと物色しているが、頭の上の瓦斯の光は薄汚い鼠色の襟巻を隠す所もなく照らしている。元気よく小僧を呼んで、手に取り上げた一枚の皿と五円札とをつき出すと、小僧は有難うといって竹村君の顔をじろじろ見た。