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みちのく
みちのく
岡本 かの子
「雄弁」1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,136 字 · 13 页
そして、これも遠来の講演者に対する馳走とでも思ったように四郎馬鹿について話してくれた。
汽車の係員たちまでがこの白痴の少年には好意を寄せて無賃で乗車さす任意の扱いが出来たというから東北の鉄道も私設時代の明治四十年以前であろう。この町に忽然として姿の見すぼらしい少年が現われた。
少年は、見当り次第の商家の前に来て、その辺にある箒を持って店先を掃くのである。その必要のある季節には綺麗に水を撒くのである。そうしたあと、少年はにこにこして店の前に立って何かを待つ様子である。
始めは何事か判らなかった店の者は余計なことをすると思って、少年の所作を途中で妨げたり、店先に立つ段になると叱って追い放ったりした。少年は情ない顔をして逃げ去る。ときどきは心ない下男に打たれて泣き喚きながら走ったりした。
けれども少年はしばらくすると機嫌を取直す。というよりも芥を永く溜めてはおけない流水のように、新鮮で晴やかな顔がすぐ後から生れ出て晴やかな顔つきになる。そしてもう別の店の前を掃くのであった。
「性質のいい乞食なのだ。一飯の恵みに与りたいのだ」
そう受取るようになった店々のものは、掃除をしたあとで立つ少年を台所の片隅に導いて食事をさせた。