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みちのく
みちのく
岡本 かの子
「雄弁」1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,136 字 · 13 页
それから少年は町から町へ漂泊することを覚えた。汽車にも乗せた人があるらしい。奥羽、北国の町にも彼の放浪の範囲は拡張された。それらの町々でも少年の所作に変りはなかった。店先の掃除をして一飯の雑作に有りついた。誤解や面倒がる関門を乗り越して四郎の明澄性はそれらの町々の人の心をも捉えた。
「四郎馬鹿さんに見舞われた店は、どうも繁昌するようだ」
それには多分に迷信性と流行性があったかも知れない。しかし少年の一点の僻みも屈託もない顔つきと行雲流水のような行動とは人々の心に何か気分を転換させ、生活に張気を起させる容易なものがあったらしい。マスコットというものはそうしたものである。
町々の人は少年を歓迎し始めた。少年の姿を見ると目出度いと言って急いで羽織袴で恭しく出迎えるような商家の主人もあった。華々しい行列で停車場へ送ったりした。少年の姿は絹物の美々しいものになった。町の有力者は言った。
「あの白痴を呼んで来るのは町の景気引立策にもいいですなあ」
北国寄りのF――町の表通りに、さまで大きくはないがしっかりした呉服店の老舗があった。お蘭という娘があった。四郎はこの娘が好きでF――町へ来ると、きっとこの呉服店へ立寄った。