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みちのき

みちの記

森 鴎外

「東京新報」1890(明治23)年8月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,251 字 · 15 页

青空文庫

て待たんといわれし丸山氏のもとへ人をやりて謝し、急ぎて豊野の方へいでたちぬ。この道は、はじめ来しおりの道よりは近きに下り坂なれば、人力車にてゆく。小布施という村にて、しばし憩いぬ。このわたりの野に、鴨頭草のみおい出でて、目の及ぶかぎり碧きところあり、又秋萩の繁りたる処あり。麻畑の傍を過ぐ、半ば刈りたり。信濃川にいでて見るに船橋断えたり。小舟にてわたる。豊野より汽車に乗りて、軽井沢にゆく。途次線路の壊れたるところ多し、又仮に繕いたるのみなれば、そこに来るごとに車のあゆみを緩くす。近き流を見るに、濁浪岸を打ちて、堤を破りたるところ少からず。されど稲は皆恙なし。夜軽井沢の油屋にやどる。

二十七日、払暁荷車に乗りて鉄道をゆく。さきにのりし箱に比ぶれば、はるかに勝れり。固より撥条なきことは同じけれど、壁なく天井なきために、風のかよいよくて心地あしきことなし。碓氷嶺過ぎて横川に抵る。嶺の路ここかしこに壊れたるところ多かりしが、そは皆かりに繕いたれば車通いしなり。横川よりゆくての方は、山の頽れおちて全く軌道を埋めたるあり、橋のおちたるありて、車かよわずといえば、鞋はきていず。