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もうすこしのしんせつを
もう少しの親切を
宮本 百合子
「白揚」1936(昭和11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,452 字 · 5 页
一方には、知性の抑圧せられ勝な息づまる世態への反撥、人間性の主張の一つの形として、肉体的にも精神的にも強く逞しい恋愛の翹望が存在している。これは、磨ぎ澄まされ偏見を脱して輝く精神力や、それを盛るところの疲れを知らず倦怠を知らない原始生命的な男女の肉体を予想し、一部の人の間にローレンスの作品等がもてはやされるロマンティックな空想の素因をなしている。
私の疑問というのは、恋愛論の要求は何かの意味で社会的なものなのであるが、それをとりあげ、座談会に出席し、或は執筆している人々の態度が、これ迄幾度か恋愛の問題について論じられた時より一層個人的に主観的に立てられているのは、どういうものだろう、というところにある。
例えば、或る中年を越した左翼的生活経験をもつ一人の男が、過去の家庭生活を更えて、妻子と離れ仕事に於ても共通点のある若い女と同棲生活に入ろうと欲する。その欲望は、男にのこされている生涯がそう永いものではないという見透しや、男一生の思い出にという熱情の爆発やによって甚しく強烈であり、過去の全生活に対して今や負担と退嬰的な要素しか見出せない状態に陥ったとする。