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ろまんどうろう

ろまん灯籠

太宰 治

「婦人画報」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,222 字 · 74 页

青空文庫

書斎には火の気が無かった。いま急に、それに気附いて、おう寒い、と小声で呟き、肩をすぼめて立ち上り、書き上げた原稿を持って廊下へ出たら、そこに意味ありげに立っている末弟と危く鉢合せしかけた。

「失敬、失敬。」末弟は、ひどく狼狽している。

「和ちゃん、偵察しに来たのね。」

「いやいや、さにあらず。」末弟は顔を真赤にして、いよいよへどもどした。

「知っていますよ。私が、うまく続けたかどうか心配だったんでしょう?」

「実は、そうなんだよ。」末弟は小声であっさり白状した。

「僕のは下手だったろうね。どうせ下手なんだからね。」ひとりで、さかんに自嘲をはじめた。

「そうでもないわよ。今回だけは、大出来よ。」

「そうかね。」末弟の小さい眼は喜びに輝いた。「ねえさん、うまく続けてくれたかね。ラプンツェルを、うまく書いてくれた?」

「ええ、まあ、どうやらね。」

「ありがたい!」末弟は、長女に向って合掌した。

その四

三日目。

元日に、次男は郊外の私の家に遊びに来て、近代の日本の小説を片っ端からこきおろし、ひとりで興奮して、日の暮れる頃、「こりゃ、いけない。熱が出たようだ。」