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わがあいするしじんのでんき(さん)
わが愛する詩人の伝記(三)
室生 犀星
――萩原朔太郎――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,406 字 · 22 页
着のみ着のままの私は上州の空っ風の中の下宿に、ひと月ほど滞在した。当時、貧乏な詩人仲間は東京の下宿を食いつめると、地方にいる投書家詩人で比較的余裕のある家に、一と月とか二か月とか滞在して食い延しをし、帰京後は先の下宿をすっぽかして新しく宿をとる転換期を用意していたものだ。勿論、私もその心算で前橋に出かけたのであるが、結局、萩原から汽車賃を出させ下宿料も払わずに帰京したのである。萩原は後にどうも変な奴だと思ったが、まんまと一杯食わされたといい、私ははじめから一杯食わすつもりで出掛けたのだと言って笑った。小説を書いて金がはいるようになってから、私は何時もすすんで勘定を払ったが、彼は笑いながら殊勝な心がけだといい、ではおれはチップを払おうといってチップを彼はいつも払っていた。きょうはおれは五円だけ出すからあとはお前払っとけと萩原はいい、酒後へべれけになった萩原にこれは先刻預った五円だから持って行け、新宿でまた一杯飲まなければなるまいというと、あ、そうか、五円まだ持っていたかと五円紙幣をポケットに捩じ込み、また会おうと二人は何時も仲善く別れた。何時でも酒が仲にはいっていたが、女の事で張り合ったこともなく、文学論なぞしたこともない、私はお金がとれる愉快さに濫作に昼夜を上げて書いていたから、金では萩原に負け目はなかっ