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わがちち

わが父

宮本 百合子

「中央公論」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,314 字 · 19 页

青空文庫

中條精一郎墓と書かれた墓標をめぐって、ここで見上げていると同じに雪片が絶え間なく舞い飛ぶ有様がまざまざと目に泛び、優しい、悲しい、同時によろこばしいような感動が鋭く、滲みとおるように胸にひろがった。ひどく降るのが二月の勢のいい雪であることが、何だか大変父の生涯や互に持っていた愛情に似つかわしく思われるのであった。

一週間程経つと、私は日常のこまこました行事に適当の注意を払って生活出来るだけ疲れを恢復した。友達たちから、一枚一枚、悔みの手紙が届くようになった。或る時はそれを受とりに立ったままの姿勢で、或る時は板壁に向って作りつけてある小机に向い、それ等の一枚一枚を私は貪るように繰返し読むのであったが、文面に真心をこめてのべられている弔辞と、自分の胸に満ちている情感とにどこか性質の違うところがあるのを感じ、特にそのことは公衆電話のボックスのような窮屈な箱に入って悔みに対する返事の手紙を書こうとする時、一層つよく自覚されるのであった。

いかにも父の亡くなりかたは急であった。父自身死ぬとは思っていなかったろう。一月九日に父は妹娘をつれて箱根の富士屋ホテルにいたのだそうな。