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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

」

「マニラ? なんとまた遠いとこで……。」

「マラソンの選手だしたが……。」

「なんとなア、可哀相に。そいでなにかいな、娘はんちゅうのは子たちが……?」

「まあ、おまっしゃろ。」

すすりあげながら言うと、

「まあ、おまっしゃろや、あれへんぜ。男の子オか。」

「それがあんた、未だ生れてみんことにゃ……。」

新世界の寄席の前で客を降ろすと、他吉はそのまま引きかえさず、隣の寄席で働いている娘の初枝を呼び出した。初枝は二十三歳、妊娠していると、一眼でわかった。

他吉はあわてて眼をそらし、物を言わず歩きだすと、初枝は前掛けをくるりと腹の上へ捲きつけて、随いて来た。

活動小屋の絵看板がごちゃごちゃと並んだ明るい通を抜けると、道はいきなりずり落ちたような暗さで、天王寺公園であった。

樹の香が暗がりに光って、瓦斯灯の蒼白いあかりが芝生を濡らしていた。美術館の建物が小高い丘の上にくろぐろと聳え、それが異郷の風景めいて、他吉は婿の新太郎を想った。

白いランニングシャツを着た男が、グランドのほの暗い電灯の光を浴びて、自転車の稽古をしている。それが木の葉の隙間から影絵のように蠢いて見えた。