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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
そういう心掛けやさかい、あんたはいつまでも前座してんならんねやぜ。――なあ、君ちゃん、そやろ?」
羅字しかえ屋の婆さんはもう歳で声が低かった。それに、丁度その時君枝は水道端の漆喰の上にぺたりと跣足になって、しきりに足を洗っていたところ故、水の音が邪魔になって、羅字しかえ屋の婆さんの声が聴きとれなかった。水道端の裸電灯の鈍いあかりが君枝の足を白く照らしていた。
羅字しかえ屋の婆さんは、君枝が返辞せぬので、
「君ちゃん、あんたいつまで足洗てなはんネ。水は只やあらへんぜ。冷えたらどないすんねん。」
「そない言うたかて、ええ気持やもん。」
と、君枝は両足をすり合わせながら、「明日はまた一日立ちづくめやさかい、マッサージして置かんと……。」
しゃがみながら、ふと空を見ると、星空だった。君枝はきんきんと、
「〆さん、あんたアンドロメダ星座いうのん知ったはる?」
「なんや? アンロロ……? 舌噛ましイな。根っから聴いたことないな。」
「ほな、南十字星は……!」
「えらいまた、おまはんは学者やねんなア。」
「そら、もう……。」
と、君枝は足を拭きながら、ぺろッと舌を出し、明日の夕方は、中之島公園で次郎に会うのだ。