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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
次郎は写真に凝っていて、今夜じゅうにあのマラソン競争の記念写真を引伸して持って来てやると約束したと、いそいそと下駄をはいているところへ、お渡御が済んだらしく、他吉がとぼとぼ帰ってきた。君枝はいきなり胸が痛く、埃まみれの他吉の足を洗ってやるのだった。
他吉は余程疲れていたのか、〆団治が「南十字星てどの方角に出てる星やねん?」と呟いたのへ、
「あんぽんたん! 南十字星が内地で見えてたまるかい。言うちゃなんやけど、あの星を見た者は、広い大阪にこのわいのほかには沢山居れへんねやぞ。」
と、言ったあと、べつにベンゲットの話もせず、そのまま家の中にはいり、這うようにしてあがった畳の上へごろりと転ると、もう鼾だった。
それ程疲れていても、しかし他吉は翌朝のラジオ体操も休まなかった。そして、いつものように俥をひいて出て、偶然通りかかった淀屋橋の上から、誰やら若い男とボートに乗っている君枝の姿を見つけた。
客を乗せているのでなければ、そのまま川へ飛び込んでボートに獅噛みついてやりたい気持を我慢して、他吉は客を送った足で直ぐ河童路地へ戻り、やっぱり親のない娘は駄目だったかと、頭をかかえて腑抜けていると、一時間ばかり経って、君枝はそわそわと帰って来た。