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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

他吉は顔を見るなり、怒鳴りつけ、

「阿呆! いま何時や思てる? 若い女だてら夜遊びしくさって、わいはお前をそんな不仕鱈な娘に育ててない筈や。じゃらじゃらと若い男と公園でボートに乗りくさって……。」

「お祖父ちゃん見てたの?」

と、君枝は平気な顔で、「それやったら、声掛けてくれはったら良えのに。次郎さんかて喜びはったのに……。水臭いわ。」

ボートに乗っていた相手は次郎で、この写真を引伸して呉れたのだと見せると、他吉の眼は瞬間細ったが、すぐ眼をむいて、

「ボートがひっくり返ったら、どないするねん?」

「次郎さん潜水夫やさかい、ひっくり返ったら……。」

「いちいち年寄りの言うことに逆うもんやあれへん。次郎ぼんであろうが、太郎ぼんであろうが、若い娘が男とべらべら遊ぶもんと違う。こんどめから会うたらあきまへんぜ。ええか。わかったか。」

君枝は首垂れて、蚊の音を聴いていたが、ふと顔をあげると、耳の附根まで赧くなり、

「次郎さんな、うちと夫婦になりたい言やはんねん。」

次郎なら祖父の面倒も見てくれる、三人で住めば良いのだと、もじもじ言うと、

「阿呆!」

蚊帳の中から他吉の声が来た。