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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
」
「お前みたいな老いぼれのあんぽんたんでも、南方へ行けるのんか。」
他吉はきいて口惜しがり、「どうせマニラへ行くんやろ。」
「一足さきに、えらい済まんなア。」
「何がさきや。わいは飛行機で行くさかい、お前より早よ着くわい。」
と、他吉は皺がれた声で言い、「それはそうと、マニラへ行たらな、歯抜きの辰いう歯医者を探して、昔わいが借りた二円かえしといてんか。この歯を抜いてもろた時の借金や。」
他吉は口をあけて、奥歯を見せたが、なにか息切れして、苦しそうであった。二十何年か前、婿の新太郎がマニラから寄越した手紙で、歯抜きの辰はとっくに死んでいると承知している筈だのに、今はこの耄碌の仕方かと、〆団治もほろりとした。
三日のち、四ツ橋電気科学館の星の劇場でプラネタリウムの「南の空」の実演が済み、場内がぱっと明るくなって、ひとびとが退場してしまったあと、未だ隅の席にぐんなりした姿勢で残っている薄汚れた白い上衣の男があった。
よくある例で、星空を見ながら夜と勘違いして居眠っているのかと、係員が寄って行って、揺り動かしたが、動かず、死んでいた。「四ツ橋のプラネタリウムへ行けば、南十字星が見られる」