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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
その時の気持はせんさくしてみれば、ずいぶん複雑でしたが、しかし、今はもうその興味はありません。それに、複雑だからといって、べつに何の自慢にもならない。先を急ぎましょう。
さて、これからがこの話の眼目にはいるのですが、考えてみると、話の枕に身を入れすぎて、もうこの先の肝腎の部分を詳しく語りたい熱がなくなってしまいました。何をやらしてみても、力いっぱいつかいすぎて、後になるほど根まけしてしまうといういつもの癖が、こんな話のしかたにも出てしまったわけで、いわば自業自得ですが、しかしこうなればもうどうにもしようがない、駈足で語らしてもらうほかはありますまい。
大阪駅へ着いたのは夜でした。文子がくれた金は汽車賃を払うと、もうわずかしか残らず、汽車の食堂での飲み食いが精いっぱいでしたので、汽車を降りて、煙草を買うと、もう無一文。しかし、かえってサバサバした気持で大阪駅から中之島公園まで歩きました。公園の中へはいり、川の岸に腰を下して煙草を吸いました。川の向う正面はちょうど北浜三丁目と二丁目の中ほどのあたりの、中華料理屋の裏側に当っていて、明けはなした地下室の料理場がほとんど川の水とすれすれでした。