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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
の生活を送った末、病苦と失業苦にうらぶれた身を横たえたのが東成区北生野町一丁目ボタン製造業古谷新六氏方、昨二十二日本紙記事を見た古谷氏は“人生紙芝居”の相手役がどうやら自宅の二階にいる秋山君らしいと知って吃驚、本紙を手にして大今里町三宅春松氏方に長藤十吉君(現在三十二)を訪れた。おりから町の子供相手の紙芝居に出かける支度中の長藤君は古谷氏の話を聞いて狂喜しさっそくこの旨を既報“人生紙芝居”のワキ役、済生会大阪府支部主事田所勝弥氏(四八)、東成禁酒会宣伝隊長谷口直太郎氏(三八)に報告、一同打ち揃って前記古谷氏宅に秋山君を訪れ、ここに四年ぶりの対面が行われた。“おお秋山さん”“おお長藤君か”二人は感激の手を握り合って四年前の回旧談に耽った。やがて長藤君が秋山君名義で蓄えた貯金通帳を贈れば、秋山君は救ったものが救われるとはこのことだと感激の涙にむせびながら、その通帳を更生記念として発奮を誓ったが、かくて“人生紙芝居”の大詰がめでたく幕を閉じたこの機会にふたたび“人生双六”の第一歩を踏みだしてはどうかと進言したのが前記田所氏、二人は『お互い依頼心を起さず、独立独歩働こう、そして相手方のために、一円ずつ貯金して、五年後の昭和十五年三月二十一日午後五時五十三分、彼岸の中日の太陽が大阪天王寺西門大鳥居の真西に沈まんと