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イグアノドンのうた
イグアノドンの唄
中谷 宇吉郎
――大人のための童話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,469 字 · 21 页
『失われた世界』
見渡す限りの土地は雪に埋れている。吹雪の日には、雪までも白くはなく、死んだような灰色である。葉の落ちた闊葉樹はもちろんのこと、雪に蔽われた針葉樹にも、緑の色は全然見られない。この一点の緑もない世界、満目唯灰色一色の世界では、食糧の不安感が、ひしひしと人の心に迫る。「雪が解けて、たらの芽でも何でも、青いものが出て来るようになれば」と、人々は遠い春をはるかに望んで、力弱い溜息をもらす。
北海道の長い冬休みを、子供たちとこの疎開先で過した。遊び道具も本もない疎開先の生活で、とくに連日の吹雪の夜など、子供たちはよく私に話をせがんだ。幸い薪だけは豊富にあったので、どんどんストーヴにくべて、その周囲に皆が寄りそっていた。勢よく燃える薪の音が、戸外の激しい風の叫びをわずかに押えて、生命の営みを辛うじて表象しているというような夜が、毎晩つづいた。電燈はもちろんうす暗かった。凄じい風の音につつまれながら、それは妙に気の滅入る沈黙の世界であった。
『失われた世界』
子供たちは、もう浦島太郎の時代をとっくに過ぎていたので、話といっても、そう種はなかった。それに本も手近かにはないので、すぐ話の種につまって、大いに弱らせられていた。