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「インガ」

「インガ」

宮本 百合子

ソヴェト文学に現れた婦人の生活

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,443 字 · 29 页

青空文庫

月に一遍夫婦揃ってお客に行く。祭の日にはせいぜいキノか芝居へでも出かける。昔のドミトリーの生活のそれが最大限度であった。家庭がドミトリーの慰安所であった。

ところが、革命が起った。ドミトリーの生涯は新しく、闘争と餓えとの間から萌え出した。プロレタリアート全戦列の前進とともに。

グラフィーラの生活は、ドミトリーのその急速な社会生活の拡大について、一緒にひろがってくることは出来なかった。彼女の地平線は、昔ながらに労働者住宅の壁までで止っている。台所と洗濯桶と亭主とワーリカが命である。

「――俺の全生活が今開いたんだ。そいつを俺あすっかり捕えたい。何にも逃さないように。――……ああ。わかるか? お前に、……同じこった、いろんな言葉で云って見たところで。」

だが、夫婦として暮した十一年間! 生れたばかりのワーリカ。――グラフィーラには承知出来ない。

「いろんな言葉? あの時、お前さんが負傷してチブスんなってつれて来られた時、じゃ私たちはどんな言葉で話したろう? 夜、お前さんのわきに坐って看病してやったとき。二人が補助金だけで暮して、お前さんはあけても暮れても本にばっかりかじりついている。