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カメラのしょうてん

カメラの焦点

宮本 百合子

「作品」1937(昭和12)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,143 字 · 5 页

青空文庫

この間うち新聞社の主催で大々的に行われたカメラ祭というものは、未曾有の催しであった。下岡蓮杖の功績が新しく人々の科学常識の間にとりいれられたのは結構であったし、カメラを愛好する若い人々にとって、ターキーの舞台姿のポーズをとられたのも、鎌倉の波うちぎわで舞う女の躍動をうつせたのも、楽しいことの一つであったにちがいない。

私はヴォルフの写真帖などを一つ二つ知っているだけであるが、カメラの美しさについては無関心ではないのである。軍需工場に働いている青年労働者は、昨今、景気のいい方の組で、かなりの金が手に入る。金はあるが、つかい道に困る。急に金は持ったが、これまでの文化はそういう若者の日常生活にとざされていたので、所謂気の利いたつかい道が見当つかず、女遊びをすると云ってもやはりこれまでの工場の若者が通った私娼窟へ金を流すという風であるそうだ。

カメラが、こういう青年層へ急激にひろがって行きつつある。手近で、集団的な生活に小さい愉しみをもたらす手段ともなるのであるから、地味な気質の勤労青年たちがカメラにひかれるわけも分る。午ごろ、お濠ばたを通りかかると一時間の休み時間を金のかからない外気の中で過そうとするあの辺の諸官庁会社の、主として若い連中が三々五五、芝草の堤にもたれたり、お濠の水を眺めたりしている。