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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
01 社交室
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,043 字 · 56 页
は皮肉とも見える微笑をうかべながら、
「いや、そんなむずかしいことではありません。……わたくしに歌を唄ってきかせていただきたいのです」
「あら、そんなことでしたの。……でも、あたし、まずいのよ。まだ、いちども本式に習ったことがないんですから。……自己流のでたらめなの」
『恋人』は、首をふって、
「どうして!……いま、あそこでうかがっていましたが、あなたのような見事な中音は、日本ではそうざらに聴けるものではありません。……最初は、自分の耳が信じられなかったくらいでした」
キャラコさんは、自分の唄がひとにほめられたことなどはいちどもなかったので、真赤になってしまった。
「おやおや、たいへんだ」
『恋人』は強くうなずいて、
「いえ、ほんとうのことです。実際、めずらしい声をもっていられる」
「では、唄いますわ。その、見事な『中音』で! ……でも、あたしの知っている歌でなくては困るのよ。……どんな歌? ごく新しいタイプの歌?」
「いや、わたくしはモダーン・タイプはきらいです。……もしか、あなたは、小学唱歌の『冬の円居』というのをご存じでしょうか」
長六閣下が知っている唱歌というのは『冬の円居』