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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
04 女の手
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,767 字 · 54 页
「……釣鈎も網もないとすると、簗をつくってかいぼりするよりほかないようね」
水はせいぜい膝がしらぐらいの深さしかないが、五間ほどの幅で、岩にせかれながら相当早い瀬をつくって流れている。ちょっと手軽にゆきそうもない。
「たいへんだ。この大きな川をかいぼりするのかしら……」
しかし、それより方法がないとなると、やっつけるよりしようがない。
キャラコさんは、だいたい思いきりのいいほうだから、いつまでもグズグズ考えていない。スカートの裾をたくしあげると、すぐさまかいぼりの実地検分にとりかかった。
丹沢の地震のとき、このへんもだいぶひどくやられたとみえ、凝灰石の大きな岩がいくつも川の中へころげ落ちて、ところどころで流れをせきとめている。その岩と岩との間を簗でふさいでゆけば、どうにかかいぼりができそうな工合だった。
キャラコさんは、物置小屋に古い葦簀があったのを思い出し、小屋まで駆け戻ってそれをひと抱えかかえて来た。
おもしろいどころではない。キャラコさんは、もう一生懸命だった。四人にこのみごとな虹鱒を喰べさせてあげたいという思いで、胸のしんが痛くなるほどだった。