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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

1

あの夜更、どうしてあの寂しい裏街を歩いていたのかと訊かれると、私はすこし顔が赭くなるのだ。

兎に角、あれは省線の駅の近所まで出て、円タクを拾うつもりで歩いていたのだった。連れが一人あった。帆村荘六なる男である。――例の素人探偵の帆村氏だった。

「君の好きらしい少女は、いつの間にやら居なくなったじゃないか」と帆村が云った。

「うむ――」

私は丁度そのとき、道を歩きながら、その少女のことを胸に描いていたところだったので、ハッとした。あの薔薇の蕾のように愛らしい少女を、帆村に紹介かたがた引張りだした今夜の仕儀だった。それはこの場末の町にある一軒のカフェの女だった。カフェの女とは云いながら、カフェとは似合わぬ姫君のように臈たけた少女だった。

そのカフェは、名前をゴールデン・バットという。入口に例の雌だか雄だか解らない二匹の蝙蝠が上下になって、ネオンサインで描き出してあった。一寸見たところでは、薄汚い極くありふれたカフェではあったが、私は何ということなく、最初に飛びこんだ夜から気に入ったのだった。それは一ヶ月も前のことだったろう。そのときは私一人だったのだが、その折のことはいずれ話さねばならぬから、後に譲るとして置いて、さて――