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ゴールデン・バットじけん
ゴールデン・バット事件
海野 十三
「新青年」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页
その君江なる女がまた愉快な女で、金の女房然としているかと思えば、身体に暇があると、誰彼なしに愛嬌をふりまいたり、情けを尽したりした。だから君江という女は、金とは又別な意味で、客たちの人気を博していた。
しかし満れば虧くるの比喩に洩れず、先頃から君江の相貌がすこし変ってきた。金青年に喰ってかかるような狂態さえ、人目についてきた。それでいて、結局最後に君江は金の機嫌を取り結ぶ――というよりも哀訴することになるのだった。
これに反して金青年の機嫌は、前から見ると少し宛よくなって来たようであった。それは、これまで煙草を欲しがらなかったチェリーが、彼の訓練によって煙草を喫いはじめたからである。
「煙草って、仁丹みたいなものネ」
とチェリーは云った。
「煙草は仁丹みたいなものは、よかったネ」
と金は笑った。女達も釣りこまれてハアハア笑いだしたが、君江だけがどうしたものか、ツと席を立って調理部屋の方へ姿を消したっきり、いつまで経っても出てこなかった。
――そのようなカフェ・ゴールデン・バットの帝王の如き人気者が、見るもむごたらしい兇行を受けたものだから、私は非常に駭きもしたし、一体誰にやられたのかと、普段から知っている誰彼の顔をあれやこれやと思い巡らした。