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ゴールデン・バットじけん
ゴールデン・バット事件
海野 十三
「新青年」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页
それからもう一つ、洋杖が立てかけてあったが、近くに眼をよせて仔細に観察してみると、象牙でできているその石突きのところが同じような生々しい泥で汚れていた。
この夜更け、丘田医師が直ぐ玄関へ飛び出して来たところといい、寝ぼけ眼をこすっていたわけでもなく冴えきった眼をしていたことといい、この下駄の泥、洋杖の泥は、丘田医師がどんなことをしていたかすこし見当がつくように思った。私は犬のように鼻をクンクン動かして、更に周囲に注意を払った。丘田医師のらしい男履きの下駄が並んでいるところは、セメントで固めた三和土だった。それは白い色が浮き上るほど、よく乾燥していた。しかし私は、その男下駄の側方に、ほんの僅かではあるが、少し湿っぽい部分のあるのを発見した。私は前跼みになると、手の甲をかえして拳の先で三和土の上をあちこち触れてみた。手の甲というものは、冷熱の感覚がたいへん鋭敏である。医師が打診をするときの調子で、そこらあたりを圧えてまわった揚句、とうとう私は或る物の形を探しあてた。それはなんと、一対の踵の高い婦人靴の形だった。靴から押して、足の寸法は二十二センチ位と思われた。